考現学

「考現学」とは、過去の遺物を研究する考古学に対して、現在の人々の生活を調査・分析する学問として、建築学者・民俗学者の今和次郎によって提唱されたもので、現在の日本のマーケティング分野におけるのフィールド調査や定性調査、エスノグラフィーなどの元祖となる考え方。
私が新卒で配属されたマーケティング雑誌の編集部では、初代編集長がこの考えに基づき、ストリートでのファッション調査(通行人の男女比率や女性のスカート率、靴やバッグ、時計やアクセサリーを含む身に着けている全身のアイテム、購入場所・購入理由、ヘアスタイルやメイク、特にはバッグの中身など)を毎月1回同じ場所で同じ時間に行う「定点観測」として不動の巻頭企画となっていた。
入社早々から定点観測を数名で行なうことになったが、雨の日も風の日も猛暑の日も極寒の日も毎月同じ場所・同じ時間で定点観測を行なうのは、正直苦痛だと思ったことも多かった。まず、見知らぬ街を歩く人に声を掛ける勇気、断られた時のガッカリ、「勝手に写真撮るな」と怖い人に脅されたり、話が長すぎるクセの強い人の話を聞き続けなくてはならなかったり、個人的な連絡先を聞かれたり、まあ、いろんなことがありましたが、人間観察力は相当鍛えられたと思う。
考現学は様々なものが観察対象になるわけですが、個人的に面白いと思ったのは、赤瀬川原平らが行なった「シェルタープラン」と名づけられた前衛美術プロジェクト(1964)で、帝国ホテルの一室で対象者の身長・体重、頭の幅・肩幅・風呂に全身を沈めて量った全身の体積・含水量(口の中に水を含むことが可能な最大容積)などを測定し、正面・後ろ・左右・頭上から・足の裏側からの6方向から等身大の写真を撮影。これらを測定し、オーダーメイドの核シェルターを造るいうもの。測定対象者にはオノ・ヨーコや横尾忠則などもいたという。代わる代わる著名人が帝国ホテルの1室を訪れ、まさか中でこんなことが行なわれていたとは、当時のホテルスタッフも予想できなかったことだろう。
この「含水量」とは、こぼれる寸前まで口の中にパンパンに水を含んでもらい、それを洗面器に出して、その水の量を計測するというもの。計測の様子を考えるだけでも笑いがこみ上げて来るような、一見何も役に立たなそうなことを敢えて計測する、でも、そこにもしかしたら何か発見があったのかもしれない。
私が定量調査であまり前例のない軸同士のクロス集計を行なったり、定性調査でちょっと変化球の質問を入れたくなるのも、そんな「含水量」測定にどこかインスパイアされているのかもしれない。
※画像はAIが作成した「含水量」測定のシーンです。


